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PP パルドゥシュとはなにか

2009/03/24

パルドゥシュ・ド・ヴィオール(Pardessus de Viole)はヴィオール(ヴィオラ・ダ・ガンバ)一族の中の最高音部、一番小型の楽器です。18世紀フランスでつくられ、非常な流行を見た楽器ですが、同じパルドゥシュでも5弦のものと6弦のものがあるうえ、良く似たタイプでカントン(Quinton)というものもあり、当時から名称に混乱がありました。この楽器のための作品も数多いのですが、従来日本ではあまり知られていません
楽器自体の復興と、パルドゥシュ関連の文献の翻訳ご紹介と通じて、もっと皆様にこのヴィオール族の最後の華である愛らしい楽器を楽しんでいただきたいと思います

この記事の最後に、パルドゥシュ関連CDのご紹介と、翻訳中の文献をご紹介いたします。どうぞヴィオールの新しい分野をお楽しみください


以下にフランスを舞台にしたヴィオール族の歴史について簡単にお話します

<16世紀>
ヴィオールは一般にバス、テナー、ドゥシュ(トレブルのフランス語名称)の三つでコンソートを構成していました

1536VioleConsort.jpg


<17世紀:フランスでのヴィオール族隆盛>
ヴィオール(ヴィオラ・ダ・ガンバ)はフランスを除く各国では16世紀にイタリアで発達したヴァイオリン族の流行とともにあまり使われなくなっていきます。しかしルイ14世治下のフランスでは「イタリア趣味」と「フランス趣味」の優劣の論争が起こり、イタリア趣味を代表するバイオリン属に対してヴィオールはフランス趣味の象徴として貴族階級にもてはやされ、ヨーロッパのほかの国で使われなくなってからも長く栄えました。特に、バイオリンはダンスの伴奏をする平民の楽器。ヴィオールは貴族の楽器というイメージが強く、貴族の女性はバイオリンを肩に構える姿勢ははしたなく、タブーとされたようです。下の有名な肖像は、ルイ15世の娘、アンリエット王女です

HenrietteDeFrance.jpg


<17世紀後半>
マレやフォルクレに代表される名手が次々と現れ、とくに和声と旋律のどちらも奏することのできるバス・ド・ヴィオールがもてはやされます

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<17世紀末~18世紀前半 ドゥシュ(トレブル)の流行とパルドゥシュの登場>
一方、アンサンブルの中ではクラヴサンが和声の役を担うようになり、テナーがほとんど使われなくなります。その中でドゥシュは、旋律表現に特化しながら愛好され続けます。しかし、コレッリらによって発達したイタリア風の音楽の流行、浸透にともなって、さらに高音域を演奏しやすく、旋律として通る音が求められ、一層小型化したパルドゥシュが作られました。当初は6弦で、テナーより1オクターブ高い調弦だったようですが、イタリア風のレパートリーにあわせるために一部をバイオリンと同じ5度調弦にしたり弦の数を減らした5弦パルドゥシュが作られるようになります

  • 6弦パルドゥシュの調弦:上から1g", 2d', 3a', 4e', 5c, 6g
  • 5弦パルドゥシュの調弦:上から1g", 2d', 3a', 4d, 5g ←この3弦から5弦は、バイオリンの2弦から4弦と同じですね

(楽器屋から一言)最高音の1g"弦は、バイオリンの1e"弦よりも細く、どうしても切れやすくなります。当時(18世紀)からこの点は苦労したようで、演奏しないときには音を下げておくなどの工夫がされました

5strPardessus.jpg FlemishPardessus.jpg


<カントンとは?>
さらには演奏会場の大規模化(コンセール・スピリチュエルなど)にともなって、倍音構成に富みやわらかい音のヴィオールでは音が通らなくなり、胴の裏板も削り出しにしてバイオリン族と同じような胴構造をもつカントン(5弦 Quinton)という楽器も多く作られるようになります。カントンの演奏法は5弦パルドゥシュと同じですが、構造の違いから、実際の音の通り方はカントンのほうが強く聞こえたのではないかと思われます
ネックは割と平たい構造で、ヴィオールと同様にフレットを巻いたものやフレット無しと両方の使い方があったようです(ネックとボディ接合部=ヒール部が、フレットをまき易いようにバイオリン属に比べて直角に近く削られているものも見られます)

一般に演奏姿勢はパルドゥシュと同様に膝の上に立てて使われました
下の写真のように、胴はほとんどバイオリンと同じ型のものも多く、胴を作るための木型はバイオリン用のものを流用して作ったりもされたようです。18世紀末以降、ヴィオールとして使われなくなると、バイオリンに改造されてしまった楽器も多かったのではないかと想像します

(楽器屋言)裏板が平らなヴィオール族に比べて裏板も削りだしのアーチがつくために、楽器製作の手間はずいぶん余分にかかります。おそらく価格的にもヴィオールよりも高くつけざるを得なかったでしょう。その為か、当時の楽器製作者の財産/遺産目録の中などでは、パルドゥシュ(5弦、6弦)とカントンははっきりと区別されているようです

QuintonBody.jpg


<18世紀後半: ヴィオール族の終焉>
この頃になると、もともと6弦や5弦で作られた楽器でも弦を減らして5弦や4弦で演奏されることが多くなり、最後には4弦でバイオリンと同じ調弦がなされるようになって独自性を失っていきます。18世紀末、大革命の勃発による貴族階級の没落に伴い、特に貴族の趣味とされたヴィオール族やチェンバロは、音楽の流れ(大規模化、大音量化)にも乗れず急速に消えていきました


【パルドゥシュのCD】
1.宍戸俊子 Magie de Pardessus de Viole
スイス在住日本人ガンビスト宍戸さんのパルドゥシュ・アンサンブルのCDです
2.Duo Geursan
3.Gabinet Armónico

【パルドゥシュをU-Tubeで見る】
パルドゥシュのU-Tube映像です

【パルドゥシュ関連翻訳文献】
ミシェル・コレット 「パルドゥシュ・ド・ヴィオール メソード」 18世紀に書かれたパルドゥシュの奏法入門書です。原文はフランス語ですが、現在鋭意翻訳中
テリー・プラット「16世紀から18世紀にかけて、フランスのドゥシュとパルドゥシュ・ド・ヴィオール」
テリーさんが30年近く前にバーゼルで書かれた論文(英語)の翻訳です。当時のフランスでのドゥシュ(トレブル)からパルドゥシュに移っていく時代背景がわかりやすく詳述されています。私が(^_^;)鋭意翻訳中です

楽器は在庫があれば全て試奏可能です。まずはお気軽にお問い合わせください。

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