1.チェンバロのタイプと歴史


一口にチェンバロと言っても、時代と国によっていくつかの特徴があります

●イタリアンチェンバロ
16〜17世紀。ルネッサンスから初期バロックにかけて、イタリアはヨーロッパの音楽的な中心でした。イタリアンタイプのチェンバロの特徴は、比較的幅がせまく(鍵盤数が少なく)、鍵盤に直角な辺(スパイン)の長さがとても長くて全体にすらっとしています。構造的にはフレームに薄く軽い材料を使い、明るく立ち上がりのクリアな音色を持っています。このタイプではほとんど一段鍵盤です。

●フレミッシュチェンバロ
17世紀前後、フランダース地方(いまのオランダからベルギー)を中心に良質のチェンバロが量産されました。代表的なメーカーとしてルッカースがあげられます。ワークショップ形式をとることによって、良質な楽器をある程度量産することができ、ヨーロッパ中の王侯などからきそって求められたといいます。この時代になると、音楽の発達にともなって音域も広く(=鍵盤数が多く)なり、奏法の多様化のために二段鍵盤も作られます。構造的にはがっしりした厚い外板を使うようになり、音色もしっかりした音に変わってきます。外観上はフレミッシュ様式のスタンドや、「フレミッシュ・ペーパー」。手描きの大理石文様。ラテン語のモットーなどが特徴です。

●フレンチチェンバロ(クラヴサン)
17世紀から18世紀にかけて、フランスの絶対王政をベースに華やかな文化が花開きます。その中で音楽的にも、工芸品としても爛熟していったのがフレンチタイプのクラヴサンです。フレミッシュを改造して音域を拡げたり、装華やかな装飾を加えたりしたものも多く残っています。音的にはフレミッシュの延長で柔らかく伸びる音が特徴です。二段鍵盤や、全音鍵を黒鍵にした白黒逆転したものも特徴的に見られます。
ルイ15世のころまでのバロック様式や、ルイ16世のころのロココ様式など、多彩なデザインや装飾が見られます。
残念ながら、フランス革命で多くの貴重な楽器が破壊されました。

●スピネット
爪で弦を弾くという意味ではチェンバロ属の一種です。鍵盤に対して弦が直角に張られているチェンバロに対して、弦が斜めに張られ、胴の形が斜めの三角形になっているタイプはスピネット(またはベント・サイド・スピネット)と呼ばれます

●ヴァージナル
やはり爪で弦を弾くのでチェンバロ属の一種といえます。鍵盤に対して弦が並行に張られています

●クラヴィコード
鍵盤の先についた金属片(タンジェント)で、弦を突き上げるように叩いて音を出します。これはチェンバロ属ではありませんが、チェンバロと同時代に特に家庭での練習や作曲などに多く使われました。非常に音量が小さいので、パブリックなコンサートにはあまり向きませんが、ピアノと同じように音の強弱が付けられること、打鍵した後まで指先のコントロールが必要なことなどから、鍵盤楽器の練習用には最適ともいわれます


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